歳を食うと何事にも新鮮味を感じにくくなるわけで、「あー、その展開ねハイハイ」と斜に構えて創作物を消費することが増えてきてしまうのはきっと私だけではないと思う。
……えっ? もしかして私がひねくれてるだけ?
いやまあそれでも面白い作品は面白いわけで、最近読んだそんな作品を紹介していきます。
ちなみにアラサーなので最近(ここ五年)みたいな時間感覚です。ジャネーの法則を身をもって体感している。
各作品について自分の感覚でこの作品好きな人はたぶん好きというのを挙げているのでその作品が好きな人は手に取ってみてください(全然合わんかったって意見は伏して受け止めます)
基本的にネタバレはないのでご安心ください。
誰が勇者を殺したか
魔王を倒した勇者が、その帰路に殺された。その死に関して勇者の仲間達は言葉を濁す。
さて、あなたは誰が勇者を殺したと考える?
一巻完結 小説家になろうからの書籍化作品。
ストーリー
勇者の死後、四年経ってから物語が始まる。
勇者・アレスの功績を編纂する過程で彼の仲間である騎士・レオン、僧侶・マリア、賢者・ソロンに取材を行う形で物語が進む。
取材での質疑応答の章、勇者・アレス視点の過去、仲間の視点の過去の章の三つの章をひとまとまりとし、仲間三人についてそれぞれ描かれ、後半は前半に蒔いた謎を回収していく。
感想
なろう発と侮るなかれ。各仲間のエピソードにそれぞれ盛り上がりどころがあって、ミステリーで陥りがちな伏線を敷くパートの冗長さが一切ない。なおかつ物語の構造がわかりやすいのでストーリーが頭に入ってきやすい。
物語後半も一気に伏線回収するのではなく、ひとつひとつ回収していくので盛り下がりもなく、飽きることなく読破できた。
頭からお尻までチョコたっぷりなライトノベルです。
この作品が好きな人なら好きそう
六花の勇者かな。一発目なのにあんまりしっくりは来てないけど。
勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録
勇者とは死しても復活し、永久に魔王と戦い続ける者。
そんな存在になるということは、もはや刑罰と言っても差し支えないだろう。
電撃の新文芸
既巻5巻 このライトノベルがすごい!2023 単行本・ノベルズ部門3位
ストーリー
勇者刑とは、もっとも重大な刑罰である。それは魔物に殺されても強制的に蘇生され、永劫に魔王現象戦い続けなければいけないという刑罰。
数百年戦いを止めぬ狂戦士・タツヤ、何でもかんでも手癖で盗んでしまうコソ泥・ドッタ、口八丁で国すら騙した詐欺師・ベネティム、自称・国王のテロリスト・ノルガユ、成功率ゼロの暗殺者・ツァーヴなどイカれた連中を率いる、自身も勇者刑受刑者であるザイロ。
ある作戦前、いつもの如く窃盗をしたドッタが持ってきたのは中身の入った棺桶で、ザイロは頭を抱える。そしてその中身は、超常的な能力を持つ「女神」である美少女・テオリッタだった――
感想
ボーイミーツガールと言うにはあまりにも血なまぐさすぎる物語だが、
・異能バトル
・裏でうごめく陰謀
・癖の強いサブキャラ達
この辺好きな方には刺さると思う。
この作品が好きな人なら好きそう
アニメ化作品で言えば86かな。まあこちらは死なないけど。ただ死にデメリットがないわけじゃなく、あまりにも欠損が激しいと修復しきれなかったり、自我が消滅したりする。死刑より重い刑罰だからね、当然だね。
中村悠一×楠木ともりによるPVもあるらしいので声優好きな方はこちらもどうぞ
わたしはあなたの涙になりたい
八雲には揺月が、揺月には八雲が必要で、比翼連理とはきっとこういう関係を言うのだろう
一巻完結 第16回小学館ライトノベル大賞 大賞受賞作
ストーリー
これは、涙で始まり、涙で終わる物語。
全身が塩に変わって崩れていく奇病「塩化病」。その病で母親を亡くした少年・三枝八雲は、小学校の音楽室でひとりの少女と出会った。
美しく天才的なピアノ奏者であるその少女の名は、五十嵐揺月。
揺月との出会いが、自分の運命を大きく変えるものになることをその時の八雲は知る由もなかった。(公式サイトより引用)
感想
公式の煽り文にあるようにいわゆる「感動もの」
自分は感動ものの作品に対し、「泣かせようとしてくる姿勢が気に食わない」というひねくれた立ち位置を取っているが、そんな斜に構えた体勢を吹っ飛ばしてくるだけの力がこの作品にはある。
基本的に現代日本をベースに描かれているが、その中で唯一のファンタジー要素が「塩化病」。
その名の通り体が塩と化す病というもので、別にこれを使って戦ったり、人を呪ったりするわけじゃない。いわゆるマクガフィンの一種だが、これがあるのとないのとでは恐らく作品のまとまり方は全然違ったと思う。
八雲と揺月が子供から大人になるまでの間、お互いに相手を思い合い、伝え合い、愛し合い、最後に待っていた二人の結末。そこに何かを感じればきっといい読後感を得られると思う。
何よりも「小学校での主人公とヒロインの出会い」から描くというのが自分の性癖に刺さりすぎていた。この性癖はたぶんハヤテのごとく!のアテナのせい。
正直、第16回小学館ライトノベル大賞に応募した人がかわいそうで仕方がない。それくらいこの作品のクオリティは新人賞離れしていたし、それは審査員の「審査なんかとんでもない。美しい物語をありがとう」というコメントにも表れていた。
この作品が好きな人なら好きそう
終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?が好きな人は相性いい気がする。
竜殺しのブリュンヒルド
愛と愛する人は、どちらの方が重いのか
既巻3巻 第28回電撃小説大賞《銀賞》受賞
ストーリー
知性ある竜とその竜に育てられた少女・ブリュンヒルドは伝説の島「エデン」でお互いを愛し、愛されながら暮らしていた。
しかし彼女らの棲む「エデン」は何度も帝国に侵攻され、ある日竜は討ち滅ぼされてしまう。
竜を屠った人物はブリュンヒルドの実の父・シギベルトで、ブリュンヒルドは「奪還」という名目で帝国に保護される。
復讐に燃えるブリュンヒルドだったが、彼女の脳裏に「神の国で再会したければ、他人を憎んではならないよ」という竜の教えがよぎる。
竜は復讐を望んでいない。だがそれを望む自分自身の渇望の行き場は――?
感想
既巻3巻とは書いたが、三作品とも世界観が繋がっているだけで物語としては全く異なるものなので、実質単巻完結。
主人公が女の子のファンタジー作品という点では結構珍しいと思う。
世界観が真新しいわけでも、キャラが尖っているわけでも、展開が衝撃的なわけでもないが、高い文章力、緻密な構成力、深い内面描写とその創作力に舌を巻く。
奇を衒ったり流行に乗ったりするわけではなく、ただただ丁寧に物語を描くことで面白い作品を創り上げている良作。
この作品が好きな人なら好きそう
自分の中で思いつかなかったので、著者が作品を書くきっかけになったというヴァイオレット・エヴァーガーデンを提示しておきます。
私がお話を書くようになったのは小説『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を読んだからです。
— 東崎惟子 (@yuiko_agarizaki) 2021年10月21日
この本に出会わなければ、小説を書いていません。
電撃大賞に応募したのは、暁佳奈先生に伝えたい言葉があったから。
先生から一生の宝物になる手紙を頂きました。
時がこのまま止まってくれればいいのに。 pic.twitter.com/tw0qBhLahp
白き帝国
戦争っていうのは残酷で、爽快で、醜悪で、美しく、そして現実にはご都合主義なんて存在しない。そんな物語。
既巻1巻
ストーリー
頭部に猫耳を持つ「ミーニャ」族が支配するガトランド王国が葡萄海の覇権を握らんとしている世界。人間とミーニャ族の間には根深い差別意識があり、国家間の損得関係以上に大きな対立要因となっていた。
そんな中、ガトランド王国は敵対する黒薔薇騎士団から人質として「葡萄海の宝石」と呼ばれるほどの容姿を持つ少女・アルテミシアを養子に迎え入れる。
ガトランド王国の第二王子トトは妹となったアルテミシアと徐々に交友を深めていくが、世界の様相は彼に残酷な未来を突き付けることとなる。
高い技量を誇る剣士たちによる高度な駆け引き。「仁」「義」「礼」「智」「忠」「信」「孝」「悌」の聖珠が持つ特別な力。高度五百メートルに浮かぶ飛行艦隊。
剣と魔法と空の艦隊戦という、犬村小六氏の集大成。
感想
ぶっちゃけ、この作品が紹介したくてこの記事を書いた。
著者の犬村小六氏は「とある飛空士への追憶」「プロペラオペラ」などの空戦戦記物を書き続けてきた人。私が追い続けている数少ない作家の一人。
なので元々期待して読んだが、あまりにも衝撃の一冊過ぎて読了後はしばらく魂が抜けてしまった。
あらゆる意味でライトノベルとしてのお約束を裏切っている作品だと思う。このエピソードをシリーズの途中に持ってくるならまだわかるが、これを一巻目に持ってくることに犬村先生の覚悟を感じた。
ネタバレにならない範囲で語る。
まずファンタジー戦記自体がライトノベルでは希少なんだけれど、その中でもこの作品のすごいところは一巻が長大な大河ファンタジーの前日譚にすぎないところ。
通常の戦記物ならこのエピソードは回想程度に留めるか、もしくはシリーズが軌道に乗ってから過去エピソードとして描くような内容だろう。
犬村先生の実績を考えたら続刊前提で書くこと自体はおかしくはないが、「一巻だけで二巻以降は出ません」となったら私はブチギレると思う。
別に一巻で話がまとまっていないという意味ではない。でも読んだ人なら私の言う言葉の意味が分かるはず。
昨今のライトノベルにマンネリを感じてる人ほど読んだ時に度肝を抜かれるだろうし、絶対好きだと思う。
今までの犬村小六作品にあった「なんだかんだ最後はある程度はハッピーエンドだろう」感が一切ないので今後の展開に期待と同時に恐ろしさも感じる。アラサーになった自分でも魂震わす作品を出してくれる犬村先生に感謝。
メイドインアビスのつくしあきひと先生が「全員むごいことになるんじゃないかな」とか言ってて「あなたが言うな」となった。
『白き帝国』犬村先生の新作貰っちゃった☺️
— つくしあきひと (@tukushiA) 2024年2月17日
折り返しの作者コメに「SNSに感想あげる際は、ネタバレ配慮お願いします」とある。
なるほど。これは表紙のかわいい子たち、全員むごいことになるんじゃないかな。楽しみです。 pic.twitter.com/2OGY5eybOG
この作品が好きな人なら好きそう
強いてあげるとすれば銀河英雄伝説か。全然違うよ、って意見もあるだろうけど自分は銀英伝もこの作品も大好き。
あとは戦記物全般。天鏡のアルデラミン、魔弾の王と戦姫など。犬村作品が好きな人は当たり前に読んでると思うので省略。
以上
今回紹介した作品好きならこの作品好きだろうなあってのがある方はぜひ感想欄に。
この記事書くのに三時間くらいかかってしまった。